現代の難問

暇つぶしは現代の最も重要な問題の一つです。

人類は長い間、生きるために過酷な労働に耐えてきました。その労働から自由だったのは、貴族や金持ちなどごく一部の特権階級だけで、彼らにとって暇つぶしは人生で最も重要なことでした。

しかし仕事に疲れた大多数の人々が求めていたのは、暇つぶしではなく休息でした。
マルクスが富の公平な分配と労働時間の短縮を訴えた時、過酷な労働と搾取に苦しんでいた労働者は、理想の世界がここにあると期待しました。しかし社会主義という絵にかいた餅によって、人類の願いを実現することはできず、それを実現したのは産業機械や家庭電化製品の進歩と普及でした。

薪でご飯を炊き、洗濯板で洗濯をしながら育児をしていた主婦には、暇つぶしの時間などありませんでした。
しかし家庭電化製品の普及によって、今や一部の主婦は(と言っておきます)亭主よりも時間の余裕を与えられました。


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文明は暇によって生まれました。
スクール(学校)と言う言葉は、ギリシャ語のスコーレ(暇)から生まれました。
奴隷制度によって暇を得たギリシャ人は、哲学、科学、芸術を論じ、ソクラテス、プラトン、アリストテレスなどの哲学者や、ピタゴラス、ユークリッド、デモクリトスなどの科学者、数学者を生みだしました。壮麗な大理石の神殿や美しい彫像、演劇や音楽などの古代ギリシャ文明は、暇によって生み出されたものです。

「源氏物語」、「枕草子」、「徒然草」、「方丈記」などの作品も暇によって生みだされました。

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吉田兼好は、「つれづれなるままに 日くらし硯にむかひて」世の中を観察し、その本質を鋭く見通しました。これほど透徹した眼を持った思想家は、世界にもほとんどいません。彼の至った境地は思考の結果と言うより、鋭い観察の結果と言った方が正しいでしょう。
次の文章は、彼の観察が如何に鋭く的確だったかを物語るものです。

「春暮れて後、夏になり、夏果てて、秋の来るにはあらず。・・・・木の葉の落つるも、先づ落ちて芽ぐむにはあらず、下より萌(きざ)しつはるに堪へずして落つるなり。

四季は、なほ、定まれる序(ついで)あり。死期は序(ついで)を待たず。死は、前よりしも来らず、かねて後に迫れり。・・・・沖の干潟遥かなれども、磯より潮の満つるが如し」

人間のレベルは暇の過ごし方に現れます。
孔子は、「小人閑居して不善をなす」、小さな人間は、暇になるとロクなことをしないと述べています。すみませんと言うしかありませんが、暇な時間の過ごし方にその人の人生が集約されています。

忙しいという字は、心を亡くすと書くとよく言います。しかし忙しい時は集中しているので心を無くすことはありません。逆にヒマ潰しにゲームをしたりパチンコをしたり、あるいはボーっとしている時にこそ心を無くしています。

話が逸れますが、ラスベガスやマカオ、モナコ、カンヌなど、世界には数多くのカジノがあります。これら世界のカジノの売り上げを全部足しても18兆円に過ぎず、日本のパチンコの売り上げ20兆円に及びません。パチンコが如何に巨大な利権であるかに驚きます。
パチンコは遊戯施設と景品交換施設が別という抜け道で、賭博罪の規制を免れています。戦後の負の遺産です。
この売り上げが消費に回れば、景気回復に貢献できるのにと考えざるをえません。

無題


パスカルは『パンセ』で、「人間はどんなに悲しみで満ちていても、なんらかの気晴らしにうまく引き込まれさえしたら、その間は幸福である。・・・・気晴らしがなければ喜びはなく、気晴らしがあれば悲しみはない。」と書いています。
しかしそれは暇つぶしを評価しているのではなく、暇つぶしによって人は死に至ると説くのです。

「惨めな我々を慰めてくれる唯一のものは、気ばらしである。とはいえ、これこそ我々の惨めさの最大のものだ。なぜなら、これは我々が自分をかえりみるのをことさらに妨げ、我々を知らず知らず滅びにいたらしめさせるものだからである。(『パンセ』)

人生が学びであるとすれば、何も考えずに時間を浪費する暇つぶしは、たしかに人生の浪費です。

どうすれば暇つぶしの時間を有意義なものに出来るか、幕末の思想家 佐藤一斎は学ぶことだと言います。

    「少にして学べば 則ち壮にして為すこと有り
     壮にして学べば 則ち老いて衰えず
      老いて学べば 則ち死して朽ちず」 

佐藤一斎先生に聞かずとも答えはわかっていたのですが、誰だって学ぶより遊ぶ方が楽しい。
やはり「小人閑居して不善をなす」ことになってしまいます。




                           
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