清廉の文化

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伊勢神宮 Wikipedia

日本人の清廉さの起源を考えて、すぐに思い浮かんだのが禊(ミソギ)でした。

禊は、神の前に出るために、水で心と体を清めることです。 日本人が古来から大切にした、清潔、簡素、正直などの特性は、心身やまわりの穢れ(ケガレ)を清め、虚飾を排して神の前に立つための条件でした。

日本人がこのような考えになった背景には、至る所に美しい森と清流があった、日本の豊かな自然環境が関わっていたはずです。

山形在住のアメリカ人、ダニエル・カールさんが、初めて新幹線に乗った時、川の多さに驚き、東京から大阪までいくつ川があるか数えようとして、余りの多さに途中で止めたと言います。
日本は国土の70%が山で、山から海までの距離が短いため、きれいな川に恵まれています。しかし、平野の多いアメリカやヨーロッパには、あまり川がありません。

日本では昔、トイレを清潔にするために川に張り出して作り、厠と呼びました。 しかし、パリではフランス革命までは家の窓からオマルの糞尿を路に捨てていたため、汚くて臭くて歩けませんでした。
ベルサイユ宮殿にもトイレが無く、庭や宮殿内で済ませていたと言われています。(ヴェルサイユ宮殿の水はセーヌ川から引いています。何kmあるのでしょうか)
風呂に入る習慣も無く、貴族でさえめったに風呂に入らなかったため、香水を必要としたのでしょう。

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ヴェルサイユ宮殿 

この背景には、豊かな水に恵まれている日本と、川の少ない国との違いがあるでしょうが、清流に恵まれた国は他にもあるのに、なぜ日本にだけに穢れをそそぎ、清廉簡素を尊ぶ神道が生まれたのでしょうか。
特別なことには特別な理由があるはずです。思想と言うべきこのような習俗には、神は過剰な装飾を嫌い、清廉さの中に宿るとの考えがあったはずであり、その教えを説いた精神的指導者がいたはずです。

神道には仏陀やイエスのような大指導者がいなかったというのが定説です。しかし、古事記に書かれていることがすべてフィクションであるとすれば、何の目的で大事に語り継がせる必要があったのでしょうか。
アマテラスと呼ばれるような精神的指導者が実在し、その教えを語り継いでいたのが、何百年、何千年かの内に、伝言ゲームのように神話となったと考える方が自然です。


昭和初期に日本に来たドイツ人の建築家、ブルーノ・タウトは、桂離宮の余分な装飾を排除した簡潔な美に感動し、「泣きたくなるほど美しい」建築と賞賛しています。(日本美の再発見ー岩波新書)
日本建築は、御所や離宮のような最高位者の住居においてさえ、過剰な装飾を嫌い、簡潔な清明さを追求するものでした。このような簡潔さに美を求める心は、31文字に思いを込める和歌にも現れています。


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桂離宮 Wikipedia

無論、装飾を極める美もあります。ヨーロッパの王朝建築や文化がその典型です。日本人はそのような美の豊かさや豪華さに憧れてきました。しかし、日本人が過去から培ってきた、簡素・清廉の美は、日本人しか成し得なかった一方の美の極致です。私たちは自らの文化の価値を見失っていないでしょうか。


著名な作家であり、フランス国営文化放送プロデューサーとして紫式部から三島由紀夫まで多くの優れた日本文化を紹介した、オリヴィエ・ジェルマントマ氏の言葉を、国際派日本人養成講座よりご紹介します。

「世界のひと握りの人間が死に金を積み上げて、その上にどっかとあぐらをかき、たらふく食って身動きもならないありさまであるのにひきかえ、何億という老若男女が飢えて、食する物なき惨状なのであります。かと思えば、先進諸国では、暴力、人種間の怨恨、強姦、麻薬などが増大する一方、日本でさえその例外ではないのです。これが「進歩」でしょうか。現代人をして守銭奴以外の何者かたらしめるためには世界は日本を必要としているのです。」

「比叡山を歩いている途中、驟雨に見舞われ、駆け込んだ旅館で食事のもてなしを受けた。見れば、中央に、一匹の焼き魚が、小舟の姿に似せてぴんと反りを打たせ、周囲に漆器の小鉢が点々と配されています。その一つ一つに、野菜、根菜、山菜のたぐいが盛られ、まるでブーケのよう。(中略)最後に添えられた林檎は、何の変哲もない代物が、ここでは皮を剥ぎ、刻まれて、花咲ける姿と化しているのです・・・・・。


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midoriさん お借りします

なんだ、つまらない、と皆さんはお考えかもしれません。これほどの調和も、あなたがたにとっては文字通り日常茶飯事でありましょうから、西洋人にとっては日常生活の中にかくも素朴にして強力な美を見いだすことが、いかに深い悦びであるか、それをお伝えできないもどかしさに私は苦しむのです。

これほどの能力を生来身につけていながら、皆さんは、ただそれを当然のことと見なし、いかにそれが豊饒を約束するものであるかに気がついておられない。より大きな、心の豊かさを求めるうえに、このように素朴な小径ありというのに、そして日本民族の、かかる天性をもって、これをさししめすことで、どんなにか皆さんは、二十世紀末の人類を救済しうるのに、と思わずにはいられません。」
  (日本待望論、オリヴィエ・ジェルマントマ、産経新聞社)


フランス文化はこの100年、世界を圧倒してきました。そのフランスが今も尚、最も日本文化を理解しているのは、華やかな自国文化の対極にあって、簡素、平明に見えながら、実は巧緻を極める日本文化の本質を、鋭く理解しているためでしょう。もしかしたら我々以上に。




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コメント

Re: 清貧

いぬさん

清貧という言葉を誰が最初に使ったのかわかりませんが、仏教が入る前の神道の祭祀を見ると、日本人の無駄や虚飾を排する考え方は、昔からあったのではないでしょうか。

2010/08/18 (Wed) 09:15 | パック #- | URL | 編集
清貧

昔読んだ本で、清貧の教えを広めたのは一休法師だったかと思います。
最初の人かはわかりませんが。

2010/08/18 (Wed) 08:25 | いぬ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

chikaさん こんにちは。

個展の出展作品、力作ですね。
バレエの先生にほめられる程ですから、余程研究されたことでしょうね。
新しい作品の輪郭を拝見しましたが、かわいい作品になりそうで完成が楽しみです。

私の記事については、毎回勉強不足を痛感しています。
ぼちぼち書いていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。

コメント有難うございました。

2009/11/06 (Fri) 14:26 | パック #- | URL | 編集

心と体に光を…

毎回ここへお邪魔する度に、しみてくる文章に出会います。

日本の持つ独自の美意識や文化の素晴らしさを改めて感じることが
出来ます。
きりり心を引き締めて、清清しく毎日を過ごしたいですものです。

ありがとうございます。

2009/11/06 (Fri) 13:44 | chika♪ #mQop/nM. | URL | 編集
Re: タイトルなし

アラレさん

「国際派日本人養成講座」は素晴らしいブログですね。
私が以前に取り上げた人物のほとんどが、このブログに書かれており、
改めて書く必要がなかったなと思っています。

昔の日本人を学ぶたびに、今の自分のだらしなさを痛感します。
コメントありがとうございました。

2009/11/05 (Thu) 07:26 | パック #- | URL | 編集

パックさん、いつも素晴らしい記事をありがとうございます。
また、パックさんの記事のおかげで「国際派日本人養成講座」という素晴らしいサイト?の存在も知ることが出来ました。私の苦手な、文字ばかりのブログではありますが、パックさんのこのブログ同様少しずつ時間を掛けて読んでいこうと思います。

今回もこれまで同様記事に対するきちんとしたコメントを書けずに挫けてしまいますが、これからも、素晴らしい記事を書き続けて下さい。楽しみにしています。

私のブログへの勿体ないようなコメント、いつもながらありがとうございます。

2009/11/05 (Thu) 01:35 | アラレ #- | URL | 編集
Re: 神ながらの道

貝殻さん こんばんは。

古神道は世界の宗教の中でも、とりわけ自然との調和を大事にしていますね。
宇宙全体が神の体であれば、自然が神の体であると考えた神道は、
まったく正しいと思います。

古事記の神話とギリシャ神話には、似たようなエピソードもあり相似性を感じます。
今から2500年前の古代ギリシャで、ソクラテスやプラトンなどの偉大な叡智が、
何の疑いもなく、アポロン神殿の巫女のご託宣を、受け入れています。
ギリシャ神話のアポロンも実在し、当時はその教えが生きていたのではないかと思います。

神道は日本人の真善美、すべてに関わっており、仏教や儒教などの知識ではなく、
今も尚、日本人の骨格だと思います。

コメントありがとうございました。

2009/11/04 (Wed) 20:18 | パック #- | URL | 編集
Re: そのままの自然が生活の場。

風光さん こんばんは。

エコという言葉の欺瞞性に、うんざりしています。
日本人の質素倹約こそが、環境と資源を大切にする本当のエコだと思います。
物を大事にすることは、資本主義の条件である拡大再生産にとって都合の悪いことですが、
それは、これまでの資本主義が、金と物質だけを求めることに起因するものであり、
みんなが少しずつ我慢して分け合えば、環境と調和して生きることができるはずです。
アフリカのモータイさんが、「もったいない」という言葉に感動してましたが、
今一番必要とされている考えだと思います。

コメントありがとうございます。

2009/11/04 (Wed) 20:01 | パック #- | URL | 編集
神ながらの道

バックさん今晩は。

私は縁あって滝行もします。神道というのは禊に初まり禊に終わると言うくらい身奇麗を大切にしているそうですね。

神ながらの道とか神様のお使いだけする様にとかばちがあたった方が良いんだよとか、そんな言葉を知ったのも神道系の滝行が縁でした。

無駄なものを省いていくと言うのもそんな日本人独特の感性ですよね。シンプル イズ ベストですね。

空間を活かす日本人の感性。何にも無いけど何かを感じるんですよね。寧ろ感じるために積極的に空間を作る所がありますよね。

八百万の神様という至る所に神様を見出す日本独自の神道。

神道には教義がなく、一人一宗と言い方もあるそうです。

精神的指導者がいたというのは考えた事が無かったのですが、言われてみれば確かにそう考えるのが自然ですよね。

でもそういう人が前面に出てこない所、教義も出てこない所に
神道の世界が垣間見られる気がします。

きっとそういう人が必死に頑張らなくても日本人の中に元々自然とそういう感性が芽生えていた様な気がします。

つかみ所が無く何となく分からない神道ですが、日本独自の神道の中に日本人の心があるんじゃないかとそんな気がして神道にも少し興味を持ち始めました。

今日も色々考えさせられました。

色々勉強させて頂き、ありがとうございます。

2009/11/04 (Wed) 19:10 | 貝殻 #mQop/nM. | URL | 編集
そのままの自然が生活の場。

私は日本が大好きです。
と言いましても他国では住んだ事がない私ですので比較をして好きだというのではなく、日本のしきたり、習慣というのでしょうか、倹約と言うことが好きなのかもしれません。
倹約は、単に費用をかけずにという意味でとらえてはいなく、物を大切にするという事と受け止めています。
母は大正14年生まれです。
私の家では野菜の芯まで頂く事を教えてくれました。
服にしましてもお下がりが普通に行われていました。
男一人の私でも、年上の従兄の服をお下がりにして着ていました。
岐阜には大垣市というところがありますが、水の都と言われた町で、川で洗濯をしたり、お茶や果物や野菜を冷やしたり・・・夏は川をお風呂代わりにしていた人も見かけました。
身近に全てのものが整い、自然が生活の一部にもなっていました。
大切な物は、事は、を見直さなければならない今の世の中だと思います。
日本の自然はゆったりとした生活が出来る場所だったと思うのです。
有難い事に、祖父と祖母の郷里、白川は今もその生活ぶりが見られます。
このような場所は、いつまでもこのままで、と思います。

今回の記事も改めて心に刻む事がありました。
感謝。

2009/11/04 (Wed) 15:58 | 風光 #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

yumiさん おはようございます。

文化というのは美しさなのかと思います。
姿、形の美しさとともに、その背景にある心の美しさに感動します。

違う文化に触れて、初めて自国文化に気がつくことがありますが、
yumiさんのように、ご主人が外国の方であれば、思わぬところで、
日本文化の良さを気づかされることがあるのではないでしょうか。

それぞれの文化に、それぞれの良さがありますが、
失われつつある日本文化の美しさに感動させられます。

コメントありがとうございました。

2009/11/04 (Wed) 08:19 | パック #- | URL | 編集

パックさんいつも暖かいお心遣い感謝いたします(^^)

日本人のよさ、日本の文化のよさというのに自信を持っている日本人は意外と多くはないかもしれませんね。。。。海外の文化の影響を受けることが多くて自分をみることを忘れてしまうからなのでしょうか。。。。

私自身も結婚する前より結婚後のほうが日本のよさや美しさに気付いたことが多いと思うのです。
それは主人に対して、そして子供に対して日本のよさや美しさを伝えたいなと意識するようになって改めて気付いていることが多いのかもしれません。。。。
それまでは西洋文化に憧れて感化されることばかりでしたがその華やかさに圧倒されて日本が地味に見えていたのでしょうね。。。。本当のよさが見えずに。。。。ある意味日本のよさはとても洗練されているのでぱっと見で目を引くというよりはとことん極めている人のほうがその究極を見出すことができてその美しさに目を奪われるということのほうが多いのでしょうね。。。。

その意味でもまだまだ日本のよさを知るというには未熟な私ですが
人生の中で少しずつ色々な美しさに気付いていければいいなと思います(^^)

いつも素敵なお話ありがとうございます♪

2009/11/04 (Wed) 05:29 | Yumi #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

宇宙・音楽さん こんにちは。

日本の文化は、知れば知るほど奥が深いですね。
どうしてこんな文化が生まれたのか不思議です。
桂離宮も伊勢神宮も、簡素でありながら、凛とした美しさがあります。

日本の良さに気づいたのは、いつだろうかと思い返してみました。

最初のきっかけは、若い頃のアメリカでの研修でした。
この時初めて、外から日本を見る事になりました。

しかし、最大のきっかけは、ある時皇居の側を歩いていて、
突然、天皇は日本の救いであるとひらめいたことでした。
戦後教育を受けて、君が代を歌うことができなかった人間に、
どうしてそのような直感が訪れたのか分かりません。

その後、音楽・宇宙さんと同じように、日本文化を侵略する勢力があることに気づき、
余計に日本を意識するようになりました。

アインシュタインの有名な、「世界は日本に立ち返る」という言葉が、
是非実現して欲しいと思います。

2009/11/03 (Tue) 17:18 | パック #- | URL | 編集

パックさん、こんにちは。

今回も、日本の素晴らしさを伝える記事ありがとうございます。

桂離宮凄いですよね。
簡素で清廉ですが、決して単純という訳ではなく無限の深さが宿ってて、詩情や宇宙観さえ感じられます。
美しいです。
以前パックさんから教えられるまで、全然その存在を知りませんでした。
教えてくださって、感謝しています。

「世界は日本を必要としている」って言葉は、今の世界の本音だと思います。
教育の高さ、精神性の高さ、文化の高さ、技術の高さ、長い歴史、和を尊ぶ心、、、、。
これだけ揃っている国は、他にあまりないのではないでしょうか。(残念ながら、破壊され続けてますが、、、。)
この転換期に大きな役割を果たせるのは、日本かもしれませんね。

あと質問なんですが、パックさんが日本の良さを伝えていこうと思ったきっかけなんてあるのでしょうか?

以前、戦後教育の影響で日本を好きになれなかったという文章を読んだ記憶がありまして、、、。

答えられる範囲で構わないので、教えて頂きたいです。

2009/11/03 (Tue) 16:26 | 宇宙・音楽 #- | URL | 編集

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