季節のうつろい

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先日、近くの小高い山を散歩していて、栗(!)が落ちているのを見つけました。

7月に入ったばかりで、まだ大きくはありませんが、もう自分の出番を準備しているのに驚きました。
ドングリはどうかとクヌギの枝を見てみると、やはり小さな実をつけています。


季節のうつろいの早さに、徒然草の一節を思い出します。

徒然草第155段 「世に従はん人は、先づ、機嫌を知るべし」より


「春暮れて後、夏になり、夏果てて、秋の来るにはあらず。

春はやがて夏の気を催し、夏より既に秋は通ひ、秋は即ち寒くなり、十月は小春の天気、草も青くなり、梅も蕾みぬ。

木の葉の落つるも、先づ落ちて芽ぐむにはあらず、下より萌しつはるに堪へずして落つるなり。

迎ふる気、下に設けたる故に、待ちとる序甚だ速し」



訳注を付記します。


「春が終わって夏になり、夏が終わって秋が来るのではない。

春はすでに夏の気を宿し、夏にはすでに秋の気が宿っている。

秋はすぐに寒くなるが、十月には小春日和の日があり、草も青くなり、梅もつぼみをつけている。

木の葉が落ちるのも、まず葉が落ちて芽が出てくるのではない。

下に用意された芽の勢いに耐えられなくて落ちるのだ。次の命が準備されているので、うつろいがとても速い。」



吉田兼好のするどい観察眼に驚きます。

このように自然の本質を洞察した人間はあまりいません。

小林秀雄が吉田兼好を称して、同時代(13世紀)、世界で最も優れた思想家である、と言っていましたが、歴史上もっとも優れた観察者の一人と言えるでしょう。

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この文章は次に続きます。


「生・老・病・死の移り来る事、また、これに過ぎたり。

四季は、なほ、定まれる序あり。

死期は序を待たず。死は、前よりしも来らず。かねて後に迫れり。

人皆死ある事を知りて、待つことしかも急ならざるに、覚えずして来る。

沖の干潟遥かなれども、磯より潮の満つるが如し」


<訳注>

「人の生・老・病・死は、四季の移り変わり以上に速い。

四季には決まった順序があるが、人の死には順序がない。

死は未来にあるとは限らず、気づかない内に後に迫っている。

人は皆、やがて死ぬことを知っているが、今日明日、急に来るとは思っていない。

しかし、死は思いがけずにやってくる。

それはあたかも、はるか遠い沖には干潟があるのに、背後の磯から急に潮が満ちて来るようなものだ。」



四季と人生を対比し、死を潮に見立てる、簡潔で見事な文章です。

吉田兼好の鋭い観察眼は、自然と人生の本質が同じであることを見抜いています。

人生の秋や冬に備えて、いつ死が来ても後悔しないように生きなければならないと言いたかったのでしょう。



『追記』

徒然草第155段 「世に従はん人は、先づ、機嫌を知るべし」の前段をご紹介します。
人の心、世の習い、自然の流れを見据えた、示唆に富む言葉です。

兼好は、世事には行うべき適当な時節があるが、必ず成し遂げたいと思うことは、すぐに実行しなければならないと説きます。

私達は何かをしようとする時、あれがダメ、これができない、あるいはもう少し待とうと、何か理由を探して先延ばしをします。

我々の優柔不断や、困難を避けたいという思いを絶つ、一刀両断のアドバイスです。



「世に従はむ人は、まづ機嫌を知るべし。

ついで悪しきことは、人の耳にもさかひ、心にも違ひて、そのこと成らず。

さやうの折節を心得べきなり。ただし、病をうけ、子産み、死ぬることのみ、機嫌をはからず。

ついで悪しとて止むことなし。生・住・異・滅の移り変はるまことの大事は、たけき川のみなぎり流るるがごとし。

しばしも滞らず、直ちに行ひゆくものなり。

されば、 真俗につけて、 必ず果たし遂げむと思はむことは、機嫌をいふべからず。

とかくのもよひなく、足を踏みとどむまじきなり」



<訳注>


「世の中の流れに適応していくためには、まず時機を知らなければならない。

時機が悪ければ、人が聞いて不愉快に思うし、納得してもらえないので思う事が成就しない。

時と場合を考えなければならない。

ただし、病気にかかることや子供を産むこと、死ぬことだけは、時機を選ぶ事ができない。

時機が悪いといって取りやめになることもない。

万物の生成・変転・消滅の有様は、流れの激しい川が満ちあふれて流れるように、滞ることがない。

瞬時に起こってくる。

だから、真理の追究や俗世間で生きる上で、必ず成し遂げようと思うことは、時機のよしあしを言うべ

きではない。あれこれ準備ができていないと躊躇せず、すぐに実行しなければならない」






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